2008年12月に当店ブログ”はじめよう!漢方生活”で記載した記事からの転載です
今回は、東海大学医学部専門診療学系准教授 杉 俊隆(すぎ としたか)先生から「不育症治療の実際」と題して御講演いただいた内容を私なりにまとめたものをアップしました。
不育症は、あまり認知されていない病気ですが、患者は少ないわけではなく、全国女性の2〜3%、約30万人はいると言われています。決してまれな疾患ではありませんが、今まで無視されてきた分野で、不育症専門医は全国で数人というのが現状です。
このような状況ですから、一般人が正確な情報を得ることは不可能でした。そうした中、不育症で悩んでおられる方々を対象に1996年から毎月1回不育症学級というものをされているそうです。そこで不育症について知っていただくという取り組みをされて来ました。
ただ最近では、インターネットの普及に伴い不育症においても検索すれば知ることができるという時代にはなったものの、インターネットの情報はその質に問題があり、不育症学級も情報を整理する場に変わってきているそうです。
不育症の分野において日本は世界のトップを走っているそうで、幸運にも今回そのトップランナーの一人である杉先生の講演を聴くことができたことは、漢方薬の分野で婦人科に取り組んでいます私にとっても非常に貴重な情報を得ることができたと思っています。専門書を読んでみても通り一遍で、臨床現場の生の声を聴くことの違いを改めて感じました。
この記事においても講演内容の質を落とすことのないようにしたいと思います。ただこのレポートは、講演内容をノートしたものをベースにまとめさせていただいていますので、細部でずれがあったりするかも知れませんが、その辺りはご理解ください。
さらに漢方薬のことについても触れたりしていますので、100%純粋なレポートにはなっていません。
また、この記事を読まれて一人で判断することのないようにお願いいたします。
≪目次≫
T.不育症を知る上でまず流産の知識をつける / 流産はめずらしくない
U.自然淘汰の一部が自然流産
V.2回流産すると妊娠成功率は上がる!?
W.以降次回アップ
*いわゆる流産は、ほんの一部!? 生理の3回に一回は、流産の可能性(超早期流産)
不育症定義(専門書の定義):生殖年齢の男女が妊娠を希望し、妊娠は成立するが流産や早産を繰り返して赤ちゃんを得られない場合をいう。習慣流産と同義語(早産のケースは、ほとんど稀なため)。
ということから不育症を理解するには、流産について知る必要があります。
※不妊症は、妊娠しないこと。不育症は、妊娠するも流産・死産をすること。自然流産とは、妊娠22週未満で自然に流れてしまうことを言います。
そのなかで、
習慣流産:3回以上連続で自然流産を繰り返すこと
反復流産:2回以上連続で自然流産を繰り返すこと
流産に関して、
@胎児側の染色体異常による原因が60%以上を占めること。
A排卵した卵子側の染色体異常。
B私達が流産と考えていた流産だけでなく、もっと早期に流産していることなどが分かりました。
では、どこからが赤ちゃんなのかという疑問が起きます。いわゆる自然流産の段階から赤ちゃんと言うのか、もっと早い段階で流産をしていることが分かっていますので、お父さんの遺伝子を持った精子とお母さんの遺伝子を持った卵子が出会って、その両方の遺伝子を持った受精卵も赤ちゃんと言えるのか。この場合は社会的・宗教的・医学的な立場などから見ないといけない議論でありますから、非常に定義付けは難しくなります。
医学的な立場から見た場合、どこからが赤ちゃんと言えるのかを検証します。
以下、精子と卵子の出会いから出産に至るまでの一連の流れの中で起きる染色体異常の確率です。自然淘汰の一部が自然流産ということが良く分かると思います。
めでたく精子と卵子が出会い受精卵になったとしても、この段階で染色体異常は40%もの確率で起こっています。
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この場合自然淘汰されます。お母さんの体の中に吸収されてしまいます。自然淘汰されないと、染色体異常を持った赤ちゃんが40%の確率で産まれてくるということになります。
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着床前に染色体異常が、25%の確率で起きます。
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この場合の多くは、着床に失敗して吸収されて自然淘汰されます。
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妊娠初期に染色体異常が10%の確率で起こります。
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この時点で全員産まれてきたとしたら、10人に1人の割合で染色体異常を持った赤ちゃんが産まれてくることになりますが、実際にはそんなことにはならず、ここでも自然淘汰されます。ここが一般的に認識されている自然流産です。
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最後に0.6%の確率で染色体異常をもった赤ちゃんがまれます。これは特別なことではなく誰でも起きる可能性があります。
以上のことから、医学的にみると自然流産は自然淘汰の一部と見ることが一連の流れでも分かりますように、受精卵といわゆる自然流産をする時点の赤ちゃんとの差はないと判断できるそうです。ですから医学的には、受精卵も赤ちゃんと定義することができます。
女性の年齢別流産率
平均の流産率は、15%と言いましたが、これあくまでも平均値で、35歳を過ぎるともの凄い勢いで流産率は上がります。
35歳:20% 40歳:40% 42歳:50% となります。
母体の年齢が上がるにつれ、染色体異常の発生率も上がることが言えます。やはりこのことは、避けられない事実のようです。
ただこの場合も街頭の意識調査では、実際と意識の差が出ています。何歳までが自然妊娠できる年齢か?という問いに「45歳」という回答が多かったそうです。
個人差はありますが、一般的に「子供を産むなら35までに」という人生設計を立てるべきかと思います。漢方薬の世界(私の信じる流派)では、子宝相談で、ご来店されますお客様の年齢が35歳を過ぎていますと、腎虚(じんきょ)と判断しています。腎虚には、補腎(ほじん)という治療・体質改善を行います。簡単に説明するなら、年齢による衰えをカバーするわけです。漢方薬と病院の併用がかなり有効です。
実際に杉先生の病院に訪れる患者さまの多くが、漢方薬を併用されているそうです。どっちで効いているのか分からないこともあるようです。一番の目的は、患者が治ることと仰られ、医学に東や西なんていうことが間違っているということを仰られています。西洋医学的な治療しか知らないからそれをやっているだけであって、漢方薬で効くのであればそれを採用しますとのことでした。懐のでかい人だと感じました。いつも思いますが、一流の人はイメージと違うものですよね。このあとアスピリン療法の話が出ますが、それも元々は柳の皮から抽出したもので、古くからヨーロッパで伝承されていたものだったことを例えに出されていました。
杉先生のお知り合いの慶応大学の漢方外来の先生が、西洋薬と漢方薬は別々の作用機序なので併用には問題ないとのお墨付きもあるようです。
薬科大学の研究においても、アスピリンと冠元顆粒(漢方薬)との相互作用についての研究で、「併用は問題ない」との研究発表が最近ありましたし、これからどんどん解明されて行くのではと思います。
私の意見を述べさせていただきますと、どちらが効いているのかではなく、お互いの長所を補い合うことによってより良い効果が生まれているものと思います。婦人科治療と漢方療法は、非常に相性の良い分野です。
レポートに戻ります。
ここから不育症の本題
35歳の女性の反復流産、習慣流産の頻度
反復流産(2回連続で自然流産)4%
習慣流産(3回連続で自然流産)0.8%
上記の頻度は、検査でどこも異常のない人に起こりうる値です。
反復流産において、100人中4人は全く異常なし、
習慣流産において、100人中1人は全く異常なしの人が存在します。
このことから流産を繰り返しただけで、不育症というのは早く、言ってはいけないそうです。
2回連続で自然流産した人は、どの検査・治療も行わないで再度妊娠した時の妊娠成功率(赤ちゃんを産んだ率)は、なんと80〜90%に上ります。
この2回連続流産した時点で検査の必要性があるか否かという点ですが、この結果からみますとまだ早いと言えます。
同様に3回連続で自然流産した人は、どの検査・治療も行わないで再度妊娠した時の妊娠成功率(赤ちゃんを産んだ率)は、50〜60%になりビックリするほど良い成功率になります。
ここで3回流産すると、普通であれば次の妊娠成功率は限りなく0%と思ってしまいがちですが、何も治療しなくても50〜60%とうまく行ってしまいます。
ここにトリックがあるようで、何もしなくても上手く行ってしまうので、めちゃくちゃなことをやったとしてもうまく行ってしまうという事実があるようですね。
3回流産すると次の妊娠成功率は、根拠もなく0%と思いこんでしまうことよって、いろんな治療法・民間療法がはやってしまったことで、不育症の進歩を妨げたそうです。後ほど出てきます夫リンパ球免疫療法もその一つだそうです。
文: 漢方の和歌ノ浦薬局 三ツ川道洋
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