
20代 女性 Kさん
数年前から動悸があり、生理を挟んだ10日間が動悸が酷くなるとのこと。普段は静電気が走るようなピリッとする弱い動悸があって、生理前後の酷くなる時は地震が起きて上下するような感覚の動悸になる。
病院の検査(心電図)では、手術するほどではないけれども血液が逆流していることが分かっている。ということは心臓の弁が正常に閉じていないということになる(心臓の弁は血液が逆流しないように電気信号によって閉じたり開いたりを24時間ずっとしてくれている。)。病名で言えば、弁膜症や大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁逆流症。
その他の自覚症状は、口が苦い・ゲップ・時々口臭が気になる・足が冷える・寒がり・寝つきが悪い・寝起きが悪い・天気が悪いと頭痛がする・目が痛い・目が渇く・ここ数日音が聞き取りにくい・息が吸い辛い・瞼や足がむくみやすい・生理前に「イライラする・さらに寝つきが悪くなる・下痢する」。
生理前から酷くなるということは、肝が問題を引き起こしている可能性が濃厚。他にも生理前に「イライラする・寝つきがさらに悪くなる・下痢する」もあるし、頭痛・目が痛い・息が吸い辛い等も肝が悪いと起こる症状。なので少なくとも肝が悪いとは言える。
肝が悪いと筋肉がこわばって硬直して来るという症状が出る。頭痛や目が痛い、息が吸い辛くなるというのも、同じく筋肉の硬直から起こっている。それと同様に心臓の弁も筋肉でできており、肝が原因で心臓の弁の筋肉がこわばり硬直し、開閉がうまく行かず動悸につながっていると考えられる。
ということから今回は、硬直してうまく動かない筋肉を漢方薬で緩ませてあげて、動悸を改善させようという作戦で行くことにした。(これで過去に何度も良くなっていもらっているので、問題の場所は心臓であるけれども、まずはこれで。)
そして14日後、生理前のイライラが消失、下痢消失、口が苦い消失、イガイガする消失、ゲップ減、目が痛い消失、むくみがマシに、口臭消失とかなり良くってもらったが、主訴の動悸は治まらず。ただ他の症状はかなり改善されているのでもう2週間同じ漢方薬で様子をみることに。
そして2週間後、動悸は治まらず・・・汗。
ここで方針転換。
親指の硬さ、親指の爪の白い所(小爪)の長さ、爪が割れやすい、瞼やふくらはぎがむくみ易い、そして動悸ということで、心臓自体が悪く、心が旺じて火剋金とオーバーヒートを起こしていると考えられるので、心の火を消すために麦味参顆粒を中心に処方を考え、また14日間飲んで貰うことにした。
動悸が酷くなる期間からスタートしたので、その期間は動悸はあったが、その後小さい動悸に移行するはずが、1週間動悸が治まっているとのこと。他にも中途覚醒が改善され、これは漢方薬がフィットしていると思われるので、同じ漢方薬を継続。
これでもううまく行くだろうとたかをくくっていたら、ところがどっこい生理前後ではない期間にも強めの動悸が1週間起きたということであった。え!?何で?
これは方向性が間違っているということなのか。睡眠の質が向上し、昼寝をしなくなったことや、硬かった親指の関節が凄く柔らかくなって正常に戻っている。これは心が悪いと起きる症状なので、それが改善しているということは、心の状態は改善していると言える。ということは方向性は、間違っていないはずだ。動悸を改善するまでには、作用がまだちょっと弱いのかも知れない。
それならばということで交感神経の高ぶりを抑える漢方薬をこれまでの倍量にして飲んで貰ったところ、これが功を奏し小さい動悸はあるものの、酷い動悸が無くなり、今までで一番調子がいいと言ってもらえるまでに改善した。そこから1ヵ月間大きな動悸は起きず、小さい動悸もたまに1〜2分起きる程度にまで改善された。
ここまでで終えると奇麗な展開で終われるのだが、実はもうひと展開があり、2週間前から紅い湿疹が腕と足に出ているそうで、病院では細かい出血のようなものだからビタミンCを摂って様子を見るしか方法は無いということで特に治療はしていないという。
そこで動悸がかなり治まっているので、湿疹を治すことに。
というのも心の熱を今まで取って来たが、お腹の状態から胆にも問題があるということは分かっていて、ゲップや多夢は熱の症状であることから、胆の熱を取ることで、心火の熱にも何らかのいい影響を与えて、ひょっとしたら動悸にも良いのではないかと考えた結果、あえて湿疹にアプローチをしてみようと考えたからだ。
そうしたところ、これまで約3ヵ月かけて少しずつ治まって来た動悸が、2週間後なんと「治った感じがする。」とご本人。
ご本人からその言葉が出るのは、よっぽど改善しないと出ない言葉なので、こちらもビックリで。動悸がほとんど無くなってしまった。
ひょっとしたらとは考えていたものの、ここまでの改善を示すとは全く予想していなかったので、正直驚きの結末となった。
方向性は間違っていなくても、量の問題でうまく行かないこと。胆火を清することが、心火を清することにもなる。という大変貴重な知見を得ることができた症例であった。