江戸時代の養生訓は、現代にこそふさわしい

江戸時代の養生訓は、現代にこそふさわしい

漢方に関係すること、書き残しておきたいこと、一般の方々に漢方の和歌ノ浦薬局のことについて書いています。最近は、TwitterやInstagramにも投稿していますので、そちらも是非ご覧ください。
三ツ川道洋
三ツ川道洋

双葉

産経新聞1/7の夕刊/食を楽しむ/名言格言の味わい/養生の術で長寿のすすめ(板坂洋司)を読みました。江戸時代の儒学者、貝原益軒「養生訓」のことが紹介されています。以下一部抜粋。

黒田藩の儒学者だった貝原益軒(1630〜1714)が晩年に著した健康書。怒った後食事してもおいしくないし、食べた後怒るとせっかくのごちそうが台無しで、消化にも悪い。食事の際は食べることに集中し、味わいながら美味しくいただくことが大事だ。(中略)

 

飲食を少なくし、病気を助長するものは食べない。あっさりとした薄味にし、生ものや冷えたもの、硬いものは禁物で、肉はたくさん食べない。塩と酢、辛いものを多く食べてはいけない。(中略)

 

こうした養生の術を守れば「天性の虚弱で多病なものでも長生きできる」と太鼓判押し、「長生きすれば楽しみ多く益多し」と長寿のすすめを説く。長寿を全うした益軒だけに説得力がある。(以下省略)

 

 

 

”怒る”とどうして消化に悪いのか。これは漢方医学の五行学説の知識があれば、簡単に分かります。「怒る」という感情は、「肝(かん)」の臓腑に関係しています。怒ると肝の臓腑が亢進し、五行学説でいうところの「肝」と「脾胃(ひい);胃腸のこと」の相克関係のバランスが崩れて、「肝」が「脾胃」を攻撃し傷つけることによって、消化吸収機能が減退することが分かっています。

 

 

 

”怒る”だけでなく、食事中だけでなく、常にイライラしたりクヨクヨしたり、ストレスにさらされていると、この「肝」と「脾胃(ひい)」の相克関係のバランスが崩れて、消化器系のトラルが起こりやすくなります。消化に悪いだけでなく”吐き気・悪心・未消化物が上がって来る・口に酸っぱいものがこみ上げてくる・口が苦い・のどが詰まった感じ・げっぷ・胃痛・胃が張る・お腹が張る・下痢・便秘・食欲減退・食欲不振など”も起こります。益軒の言うように生来の虚弱者は、ちょっとしたストレスでも肝の攻撃を受けて負けてしまいますから、「脾胃」のトラブルが起こりやすくなりますので、本当に養生が大切です。

 

 

 

生来胃腸が強く生まれている人は、気にすることはありませんが、イチローのように生来丈夫でも日本をしょって立つほどのストレスにさらされれば、さすがのイチローも肝の攻撃にやられて「胃潰瘍」になってしまいました。

 

 

 

また”生ものや冷えたもの”は、禁物と書いていますが、江戸時代に冷蔵庫・自動販売機なんか無い時代に禁物と書かれているくらい生もの・冷たいものは禁忌なのです。

 

 

 

「脾胃」は、たくさんの陽気があって動く臓腑です。現代医学でも体温が1℃下がるだけで、生理機能が落ち消化酵素の働きが落ちると言っています。冷蔵庫の中から取り出してすぐ口に入れる行為は、今日から止めておきましょう。

 

 

 

常に胃腸を冷やし続けると、消化に悪いだけでなく”食欲減退・胃痛・腹痛・下痢など”はもちろんのこと、生来胃腸が弱く生まれて来た人は”冷え症・寒がり・疲れやすい・体力がない・気力がない・だるい・話すのがおっくう・生殖能力の低下(不妊;男女とも)等”という状態につながって行きます。当然、長生きなど望めるべくもなく現代の荒波に生き抜いて行くことも心配になります。

 

 

 

あらゆる生理機能には、”陽”とういうものが大切で「有陽則生、無陽則死(陽気があれば生きられる。陽気がなければ生きられない。)」という言葉があるくらい陽気は大切で、”陽気”は無限にあるというものでは無く大切にしなければなりません。そのことを益軒は、生もの・冷たいものを食べて陽気を傷つけてはいけませんよと戒めているのです。

 

 

 

年をとれば自ずと陽気も衰えます。それを証拠に高齢のおじいちゃん・おばあちゃんを思い浮かべて下さい。”ほとんど動かない・話さない・寒がり・冷えに弱い・おしっこが近い・夜間尿等”陽気が衰えて活動量が落ち冷えから起きる症状がたくさん出てきます。年をとると寝ているのか起きているのか分からなくなりますが、これは”陽気”の不足を意味します。ちなみに死ぬ時のことを漢方用語で「亡陽(ぼうよう)」と言います。年をとると自ずと衰える”陽気”を若いうちから生ものや冷たい飲食物で傷つけないようにすることが、長生きの秘訣なのです。

 

 

 

既にこの”陽気”を傷つけてしまった・肝脾のバランスを崩してしまった人で、上記で示した症状が出てしまっている人は、どうすれば良いか。もちろん貝原益軒の養生訓を守るとともに漢方薬の服用で陽気を補うこともひとつの方法です。以下に上記の症状がある時に用いられる漢方薬をいくつか紹介致します。

 

 

 

  • 鹿茸大補湯(ろくじょうだいほとう)
  • 参馬補腎丸(じんばほじんがん)
  • 蘭州金匱腎気丸(らんしゅうきんきじんきがん)
  • 参茸補血丸(さんじょうほけつがん)
  • 双料参茸(そうりょうさんじょうがん)
  • 玄武温陽(げんぶおんよう)
  • 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
  • 小健中湯(しょうけんちゅうとう)
  • 補気升陽(ほきしょうよう)
  • 海馬補腎丸(かいまほじんがん)
  • 扶陽理中(ふようりちゅう)
  • 療方昇陽(りょうほうしょうよう)
  • 十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
  • 桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
  • 独活寄生丸(どっかつきせいがん)
  • 香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)
  • 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
  • 晶三仙(しょうさんせん)
  • 香蘇散(こうそん)
  • かっ香正気散(かっこうしょうきさん)

 

 

 

以上が考えられる漢方薬です。弁証論治(漢方カウンセリング)を行い証(しょう)を見極めたうえで以上の漢方薬から選薬します。セルフでお選びになられても構いませんが、効果が無ければ一度漢方の専門店で相談されることをお勧めいたします。

 

 

 

丈夫な胃腸の持ち主は、健康で長生きします」も合わせてご一読下さい。平賀源内の”土用の丑の日”とからめて、「長生きする人は、みんなウナギが好きなようです。」をどのように解釈するかをひも解きながら、胃腸と健康・長寿の関係を解説しています。

 

 

 

  • この記事を書いた人: 国際中医専門員 医薬品登録販売者 三ツ川道洋
  • この記事を監修した人: 薬剤師 三ツ川亜希